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執筆者の写真Hamu Isen

地上のメチエ


「メチエ」という謎めいた言葉を初めて聞いたのは専門学校時代まで遡ります。


飲み会の席で二つ上の先輩がとある先生に「お前の作品にはメチエがない」、と言われた場面を今でも鮮明に覚えています。実際の会話でメチエという言葉を聞いたのは、ひょっとしてその一回きりかもしれない。つまり今では誇りを被った言葉である、ということでしょう。その当時、キチンとした意味はわからずとも「メチエがない」、そう言われたらかなりショックであろう、そんな類の言葉であることは理解できたのです。そして私にとっては今でも大事な言葉のひとつです。


アートの方面では「独自の表現やスタイル」という意味合いで使われいるこの言葉を、敢えて「職人の熟練された技術」という、もう一方の意味合いで意識しているアーティストはどれくらいるでしょうか?「技術」という言葉を極端に嫌うアーティストは今も昔も少なくないでしょう。しかし、建築現場に小さいころから親しんできた私は、「技術」の意味から細部をイメージする素地があります。むしろ、そのイメージの中で捉えている景色が自分のメチエなんだろうな、そんな感じがします。


「職人の熟練された技術 」と聞いて虚無や冥界に向かうイメージをする人は少ないでしょう。私にとってメチエが意味するところの「技術」とは、地上とその上に立ちあがるものとの「接点」に向けられた意識なのです


私は「メチエ」という言葉について考えるとき、青空のもと、崖の上に立つ神殿のようなものを思い浮かべます。建造物としての神殿が男性原理で、そこに降りてくる柔らかいもの(直観・感性)が母性原理ではないか、そんな両義的な状態を「メチエ」の意味に見出しているのかもしれません。

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